クリニックの労務管理でも最もトラブルとなりやすいのが
賃金関係です。
最近「すでに退職した元従業員から未払い分の残業代を
請求された」という事例が増えています。
近頃は未払い残業代の請求の仕方などを指南する
サイトや業者もあるようで、今後もこのような事例が
増えると予測されています。
今回は、未払い残業代の請求を受けた時に
どうすれば良いかについて簡単にまとめました。
もくじ 証拠があれば未払残業代を支払う必要がある 未払い残業代を請求されたときに確認したい項目3つ ・元従業員の主張する残業時間は正確かどうか ・会社が指示した残業であったかどうか ・元従業員は管理監督者であったかどうか 未払賃金の請求期限が延長されている まとめ:業務を効率化し、残業を行わせないクリニック運営を目指そう |
証拠があれば未払い残業代を支払う必要がある
請求された内容が正当であり、残業代が支払われて
いないという確かな証拠があれば、雇用主は
退職後でも未払い残業代を支払わなくては
なりません(労働基準法第32条および36・37条)。
もし残業代を支払わなかった場合は、
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条)。
さらに、退職までに支払われなかった残業代は
未払賃金と同様の扱いとなるため、年14.6%の
遅延損害金(遅延利息)がかかります(退職前の場合は年6.0%)*1。
未払い残業代を請求されたときに確認したい項目3つ
元従業員から未払い残業代の請求があったから
といって、相手の要求額を全て払う必要があるとは限りません。
そもそも請求が正当であるのかを精査する必要があります。
その際に押さえておきたいポイントを3つ挙げておきます。
元従業員の主張する残業時間は正確かどうか
まずは、会社に記録が残っている労働時間と
元従業員の主張する労働時間に差がないかどうか、
また請求された時間に確実に元従業員が
労働していたかどうかを確認しましょう。
タイムカードの打刻時間を元に未払い残業代を
請求されたが、喫煙のための休憩時間や
副業などに時間を使っていたとして、
残業代を認めなかった判例がいくつかあります*2。
会社が指示した残業であったかどうか
請求のあった残業が会社指示であったかどうかも重要なポイントです。
元従業員が「会社の命令で残業をした」と主張しても、
そもそも残業禁止命令が出ている場合は支払う必要はありません。
元従業員は管理監督者であったかどうか
元従業員の職責が労働基準法第41条における
「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」に
あたる場合は、残業代や休日出勤手当といった
割増賃金の対象となりません。
医療機関においては、看護師の採否の決定や
配置など労務管理業務について経営者と
一体的な立場にあり、責任手当や特別調整手当が
支給されていた人事第二課長が「管理監督者」に
当たるとされた判例があります*3。
未払賃金の請求期限が延長されている
2020年4月の民法改正により、残業代や休業手当、
出来高払制の保障給を含めた未払賃金の
請求の消滅時効が2年から5年(ただし当分の間は3年)
に延長されました(労働基準法第115条)。
ちなみに退職金請求権の消滅時効期間に変更はありません。
これに伴い、賃金台帳や雇い入れ・解雇などに関する
書類、出勤後やタイムカードなどの各種記録の
保管期間も5年(ただし当面の間は3年)に
延長されています(労働基準法第109条)。
書類関係の整理をする際にはご注意ください。
まとめ:業務を効率化し、残業を行わせないクリニック運営を目指そう
退職した元従業員から未払いの残業代を
請求された時には、その請求が正当なものかどうかの
精査を行う必要があります。
過去の判例を見ても、会社側に出勤簿やタイムカード、
電子カルテの記録や残業の指示書などのきちんとした
証拠がない場合は、元従業員側の請求が認められることが多いです。
このようなトラブルを避けるためには、契約時に
職責や労働時間について明示するのはもちろんのこと、
勤怠管理ソフトやPCのログ管理システムの導入、
そして残業の申請・許可制など、正確かつ客観的な
労務管理が必要となります。
またクリニックの定型業務をできるだけ効率化するなど、
残業をしない職場環境作りも大切です。
退職後に請求された未払残業代は在職中よりも
高額になるケースが多いため、請求の原因と
なるような残業を減らすとともに、請求された場合は
必要な証拠を素早く出すことができる透明性のある労務管理を目指しましょう。
医師 M.M.
*1 厚生労働省東京労働局 未払賃金とは
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roudousaiken1.html
*2 公益社団法人全国労働基準関係連合会 労働基準判例検索 アイスペック・ビジネスブレイン(賃金請求)事件
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08614.html
*3 公益社団法人全国労働基準関係連合会 労働基準判例検索 徳洲会事件
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/03042.html
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf
※本記事の内容は2022年9月時点の情報を参考にしております
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